「おい、テメー・・・」
「あら、初めまして。」
出会いは、なんとも気が抜けた感じで。
「なんで・・・こんな森ン中・・・?」
「ここに、住んでるからですけど?」
彼女は、原武 芭羽と言った。
「じゃあな。」
「もう・・・ですか・・・」
「また・・・来てやるよ。」
「まあ。本当ですか?」
笑顔が湖のように澄んでいて、
いつまでも忘れられないものだった。
「ったく・・・あれからなんも変わってねぇ・・・」
前と同じような森の道を歩く。
この先に湖が見える。
そこには、確か・・・・・・。
「よう。」
「・・・・お久しぶり、です」
原武 芭羽が水辺に座っていた。
「原武・・・お前、変わんないな・・・」
「芭羽、と呼んでくださいな。冬獅郎さんこそ・・・変わってません」
そういって微笑む瞬間は変わっちゃいない。
前と同じ、透き通った笑顔。
もう、存在自体、この湖の水のようだった。
「なあ芭羽、お前・・・霊力あるよな・・・?」
「はあ。ありますけど。」
知ってたのか。
「じゃあ俺と一緒にこないか?ほら、お前このまえ俺の怪我治しただろ。
あの能力を俺んとこで・・・・」
「冬獅郎さん・・・それは・・・・」
困惑したような芭羽の顔。
「急で悪いな・・・・やっぱ駄目か・・・」
「い・・いえ・・・う・・うれしいんですけど・・・」
「・・・?」
「なんで・・・そんなこと、あたしなんかに・・・」
そんなの決まってる。
「お前に傍にいて欲しいから。」
「・・・・///」
白い肌が赤く染まる。
そのときの芭羽はとても綺麗だった。
「好きなんだよ・・・お前が・・・・・」
「えっと・・・その・・・」
芭羽は、立ち上がった。
俺もつられて立ち上がって、芭羽の細い肩を掴む。
「一緒に・・来てくれないか?」
「冬獅郎さん・・・それは・・・・っ」
芭羽が後ろに下がると、そこは湖。
「え・・・・」
バシャ・・・ッと水音が跳ね、湖に落ちる。
「芭羽?!だ・・・いじょ・・・」
芭羽の落ちた場所を見ると、
そこには一匹の白鳥。
「・・・・芭羽?」
呼びかけると、軽く白鳥はうなずいた。
「・・・悪いな・・・・・」
そう言うと、首を振る白鳥。
白鳥は俺に近づいて、くちばしを俺の唇にそっと当てる。
「また、来るからな。」
「・・・」
白鳥は、それっきり見えなくなった。
「隊長?今日から新人入るんですけどぉ?」
あれからなんヶ月か過ぎた。
芭羽にはもちろん、湖にすら行ってない。
というか芭羽が俺が湖の近くに来ることを望んではいないだろう。
「ああ。そうか・・・」
「もー隊長、じゃあ入れますよ・・・?」
松本が手招きをして、新人を部屋に入れる。
俺が一瞬、そちらを向くと太陽の反射で目の前が真っ白になった。
白の世界から聞こえてきたのは
「新しく入隊することになりました。原武 芭羽です。」
あの、澄み切った声だった。
「え・・・原武・・・芭羽・・?」
「お久しぶりです。冬獅郎さ・・・じゃなくて日番谷隊長」
にっこりと微笑む芭羽。
その時、松本は「あら、お知り合い・・・・」と言いながら部屋を後にした。
「どうして・・・」
「日番谷隊長を追っかけてきちゃいました」
「湖は・・・」
「・・・別に・・出られなかったわけじゃなかったんですよ・・・」
「え・・・だって・・・」
「あ、てんぱってたのは、恥ずかしかっただけです・・・でもあたし・・・元は白鳥・・ですし・・・・」
ガタンッと椅子を立ち上がると、ビクッと肩を振るわせる芭羽に近づく。
「やっと・・・ずっと一緒だ・・・」
「え・・・あの・・」
芭羽の体は本当に鳥の羽みたいにやわらかく、しなやかだった。
「いやか?」
うつむいた芭羽は、ぽつりと「いいえ。」と返した。
「大好き・・・です。」
「俺も。」
二回目のキスは、温度のわかるやさしいキスだった。
白鳥のワルツ
その白鳥は、透き通ったあの湖の水のように。